「メディカルライターって、どんな仕事をするんだろう?」
「医療系の資格がない自分でも、なれるのかな…」
「文章を書く仕事で、ちゃんと食べていけるの?」
メディカルライターとは、製薬企業やCRO、大学・行政機関などで、承認申請の書類や学術論文といった専門文書を執筆する職種です。 結論からいうと、医療や研究の知識を土台に文章で貢献する専門職で、必須の公的資格はありません。
この記事は、製薬・治験のキャリア情報を公開データと整合させて発信するファーマネクスト運営事務局がまとめています。 日本メディカルライター協会(JMCA)の公式資料や、日本製薬工業協会のアンケートデータといった一次情報をもとに、職種の実態を整理しました。
この記事で解説するのは、次のポイントです。
メディカルライターの定義と「医療ライター」との違い
文書の種類と所属先で分かれる具体的な仕事内容
製薬協が整理した、求められる3つの力
公的統計から考える年収の目安と、未経験からなるには
読み終える頃には、メディカルライターという仕事の輪郭と、自分に合うかどうかの判断材料がつかめるはずです。
先生、メディカルライターって聞いたことはあるんですけど、実際に何を書く人なのか、正直よく分かっていなくて…!
ふふ、大丈夫よ蓮くん。定義から年収、未経験からの入り方まで、この記事で順番にほどいていきましょう。
※記事の要点は、以下のスライドでもサッと確認できます。
メディカルライターとは薬事文書や論文を執筆する専門職
メディカルライターは、医療・製薬の専門文書を扱う職種です。 まずは職能団体の公式な位置づけから、その正体を確認します。
そもそも「メディカルライター」って、ひとつの決まった職業として存在しているんですか…?
ええ、職能団体もある立派な専門職よ。まずは狭い意味での定義から見ていきましょう。
狭義のメディカルライターは製薬・大学・行政で申請書類や論文を担う職能
狭い意味でのメディカルライターは、製薬企業や大学、行政機関などで、薬事申請の書類や学術論文の執筆を担当する専門職です。 日本メディカルライター協会(JMCA)は、英語圏でこうした職能を狭義のメディカルライターと呼ぶと説明しています。
書く対象は、一般向けの読みやすい記事ではありません。 専門用語という共通言語を持つ読者に向けて、円滑な薬事申請や研究成果の発表を目的とする文書が中心です。 そのため、決められた形式や表現、論理構造にそって正確に書く力が求められます。
海外にも、同じ職能を束ねる団体があります。
アメリカの職能団体AMWA
ヨーロッパの職能団体EMWA
こうした団体が国際的にそろっていること自体が、メディカルライターという専門職の確立ぶりをよく表しています。 (出典: 日本メディカルライター協会「医療や健康に関するコミュニケーターとは?」 )
一般向け健康記事を書く「医療ライター」との違い
「医療ライター」という言葉からは、在宅で健康記事を書くWebライターを思い浮かべる方も多いかもしれません。 ですが、製薬メディカルライターと、一般向けの健康情報を書く仕事は、読者も目的も異なります。 JMCAは、一般市民に向けて専門家と非専門家の橋渡しをする発信を「ヘルスコミュニケーター」と呼び、狭義のメディカルライターと区別しています。
両者の違いを整理すると、次のとおりです。
種類 主な読者 目的 製薬メディカルライター(狭義) 医療関係者・製薬企業など専門家 薬事申請・研究推進・研究成果の発表 ヘルスコミュニケーター 患者・一般市民など非専門家 分かりやすい情報提供と行動変容
同じ医療の文章でも、狙いは正反対に近いものになります。 専門家向けの文書は規定の形式や論理構造が重視され、一般向けの記事は読みやすさや行動変容が重視されるためです。 自分が書きたいのはどちらなのかを見極めることが、キャリア選びの最初の分岐点になります。 (出典: 日本メディカルライター協会「医療や健康に関するコミュニケーターとは?」 )
職能団体JMCA(2006年設立)が示す位置づけ
メディカルライターが専門職として認知されている裏づけのひとつが、職能団体の存在です。 日本メディカルライター協会(JMCA)は、メディカルライターやヘルスコミュニケーターの育成を主な目標に、2006年5月に設立されました。 英文名は「Japan Medical and Scientific Communicators Association」で、メディカルライティングとヘルスコミュニケーションの両方を扱う団体です。
活動は、教育やキャリア支援にも及びます。
一般公開講座やシンポジウムなどの普及啓発
教育カリキュラムの作成と教育コースの開催
求職者情報・求人情報を閲覧・掲載できる「閲覧会員」制度
協会の目的には「職業能力の開発と雇用機会の拡充」が明記されています。 文章を書く力を専門職の能力として育て、働く場につなげる。 その仕組みが、業界団体のレベルで整っています。 (出典: 日本メディカルライター協会 ごあいさつ ・定款 )
メディカルライターの仕事内容は文書の種類と所属で分かれる
メディカルライターの仕事は、扱う文書の種類と所属先で幅があります。 代表的な業務を、公式資料から見ていきます。
「文書を書く」といっても、具体的にはどんな書類を担当するんでしょうか…?
いい質問ね。承認申請の資料から学術論文まで、扱う紙の種類で仕事の色が変わるのよ。
薬事文書の作成(CTD・治験総括報告書・治験実施計画書・申請資料)
メディカルライターの中心的な仕事のひとつが、承認申請にかかわる薬事文書の作成です。 日本製薬工業協会(製薬協)のデータサイエンス部会が製薬企業を対象に行った調査では、メディカルライターが携わる薬事文書として、承認審査にかかわる文書が挙げられています。
具体的には、こうした文書です。
CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)や治験総括報告書の構成
治験実施計画書
承認申請の資料
これらは、新しい医薬品が承認されるまでの過程で、規制当局に提出される重要な書類です。 なお、PMDA(医薬品医療機器総合機構)がまとめる審査報告書は当局側の文書で、メディカルライターが作成するものではありません。 数字やデータを正確に、かつ論理的に伝える文章力が、そのまま医薬品開発の質に直結する領域です(出典: 日本製薬工業協会 データサイエンス部会「メディカルライターが携わる薬事文書に関する課題調査アンケート」回答結果の要約 )。
学術論文の作成・投稿を担うPublication Management
薬事文書と並ぶもうひとつの柱が、学術論文の作成・投稿にかかわる仕事です。 これはPublication Management(パブリケーションマネジメント)と呼ばれ、医学研究の成果を論文として発表する過程を支えます。 JMCAによると、この業務には製薬会社や出版社、制作会社、CROに所属する人が携わっています。
論文の執筆や投稿では、正確さと同じくらい倫理が重視されます。 だれを著者とするか、データをどう扱うかといった点で、出版倫理や国際的なガイドラインに沿うことが前提になるためです。
JMCAには、この分野の担当者がネットワークを作り、国際的なガイドラインに則った専門知識やスキルを高め合う意見交換の場も設けられています。 単に文章がうまいだけでなく、研究発表のルールを理解していることが、この領域では欠かせません(出典: 日本メディカルライター協会「Publication Management 意見交換会」 )。
所属先はCRO・製薬企業・出版社・制作会社と幅広い
メディカルライターの働く場は、ひとつの業種にとどまりません。 これまで見てきた薬事文書やPublication Managementの担い手を合わせると、所属先はかなり幅広いことが分かります。
公式資料から確認できる主な所属先は、次のとおりです。
製薬企業
CRO(開発業務受託機関)
出版社
制作会社
大学・行政機関などの研究・公的機関
同じメディカルライターでも、製薬企業の社員として承認申請にかかわるのか、CROや制作会社で複数のクライアントの仕事を担うのかで、働き方は変わります。 所属先の選択肢が多いことは、自分の専門やライフスタイルに合わせてキャリアを設計しやすいという利点でもあります(出典: 日本メディカルライター協会「Publication Management 意見交換会」 /日本製薬工業協会 データサイエンス部会「メディカルライターが携わる薬事文書に関する課題調査アンケート」回答結果の要約 )。
メディカルライターに求められる3つの力
必要なのは、文章力だけではありません。 製薬協が整理した3つの力から、求められる素養を確認します。
文章がうまければ務まる、というわけではないんですね…?
そのとおりよ。書く力に、人を動かす力と、技術への理解が加わってこそ一人前なの。
ライティングスキル(理論構築・メッセージ化・成果物の点検)
1つ目は、ライティングスキルです。 ここでいう文章力は、きれいな作文をする力ではありません。 製薬協の調査では、ライティングスキルの中身として、理論の構築やメッセージ化、成果物の評価・点検などが挙げられています。
つまり、次のような力の集合体です。
複雑なデータや試験結果を、筋の通った論理として組み立てる
伝えるべき要点を、明確なメッセージとして言語化する
できあがった文書を客観的に評価し、点検する
医薬品の文書は、少しの曖昧さや矛盾が審査や研究に影響します。 だからこそ、書いた後に自分の文章を厳しく点検する力まで含めて、ライティングスキルと捉えられています。 文章を書く仕事に興味がある人にとって、もっとも土台になる力です。 (出典: 日本製薬工業協会 データサイエンス部会「メディカルライターが携わる薬事文書に関する課題調査アンケート」回答結果の要約 )
リーダーシップスキル(文書作成の調整・管理・課題解決)
2つ目は、リーダーシップスキルです。 文書を書く仕事なのに人をまとめる力が必要なのは、意外に思えるかもしれません。 ですが、承認申請にかかわる文書は、ひとりで完結するものではありません。
製薬協の調査では、リーダーシップスキルとして、薬事関連文書の作成にかかわる調整や管理、課題解決などが挙げられています。 1つの文書を仕上げるまでには、開発や統計、薬事など複数の部門とのやり取りが発生します。
関係者の意見を調整し、スケジュールを管理し、途中で生じる問題を解決していく。 こうした進行役としての動きが、質の高い文書を期限内に仕上げるうえで欠かせません。 文章力と対人・調整力の両輪が求められる点が、メディカルライターという仕事の奥行きです。 (出典: 日本製薬工業協会 データサイエンス部会「メディカルライターが携わる薬事文書に関する課題調査アンケート」回答結果の要約 )
ITリテラシー(IT技術・データサイエンス・関連指針や法令)
3つ目は、ITリテラシーです。 製薬協の調査では、IT技術やデータサイエンス、IT関連の指針・法令への理解が、求められる力として挙げられています。 近年は臨床試験や文書作成のデジタル化が進み、扱うデータの量も種類も増えています。
この力に含まれるのは、たとえば次のような要素です。
文書作成や管理に使うIT技術を活用する
データサイエンスの考え方を理解し、統計的な内容を正確に扱う
IT関連の指針や法令をふまえて作業する
メディカルライターは、統計や試験データを文章に落とし込む場面が多い職種です。 数字の背景にある分析の考え方や、電子データを扱ううえでのルールへの理解は、これからの時代はより重みを増します。 文系・理系を問わず、デジタルの素養を磨いておくことが強みになります。 (出典: 日本製薬工業協会 データサイエンス部会「メディカルライターが携わる薬事文書に関する課題調査アンケート」回答結果の要約 )
書く力だけじゃなく、データやルールへの理解まで…。奥が深いです。
……悪くない着眼点ね。書いて終わりじゃない、というところに気づけたなら十分よ。
メディカルライターの年収は公的統計に単独区分がなく所属で幅がある
年収は気になりますが、メディカルライターには単独の公的統計がありません。 事実に沿って、考え方を整理します。
いちばん気になるのはやっぱり年収なんですけど…はっきりした数字はあるんでしょうか…!?
正直にいうわね。メディカルライターだけを取り出した公的な統計は、今のところ無いのよ。
MW単独の公的年収統計が存在しない理由
メディカルライターの年収を知りたいとき、まず押さえておきたい事実があります。 厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag、日本版O-NET)には、多くの職業が収録されています。
ただ、その中に「メディカルライター」という独立した職業の区分は見当たりません。 そのため、この職種だけを取り出した公的な平均年収の統計は、確認できないのが実情です。
年収に単独の統計がない背景には、次のような事情が考えられます。
製薬企業やCRO、出版社などさまざまな所属先に分かれている
専門性が高く、就業者の数がほかの職種に比べて限られる
インターネット上では具体的な平均年収を示す情報も見かけますが、公的な裏づけが確認できない数字を鵜呑みにするのは危険です。 この記事では、確かな一次情報にないメディカルライターの年収を断定することは避けます。 かわりに、次の項目で近い専門職の公的な目安から待遇感を考えます。 (出典: 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag)
近い専門職の公的年収目安(CRA約528万円・MR約660万円)から見た待遇感
メディカルライターそのものの統計がないなら、近い専門職の公的な目安を参照点にする方法があります。 厚生労働省のjob tagには、製薬・治験にかかわる専門職の年収が掲載されています。
参考になるのは、次の2職種です。
職種 公的な年収目安 CRA(臨床開発モニター) 約528万円 MR(医薬情報担当者) 約660万円
いずれも医薬品にかかわる専門職で、メディカルライターと同じく専門知識を土台に働きます。 これらの数字は、あくまで別の職種の目安であり、メディカルライターの年収を保証するものではありません。
それでも、製薬・治験まわりの専門職が、全体として専門性に見合った待遇の水準にあることは読み取れます。 メディカルライターも、経験や所属先によって幅はあるものの、専門職としての待遇が期待できる職種の一群に位置づけられます。 (出典: 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag CRA /MR )
未経験からメディカルライターになるには
医療系の資格や経験がなくても目指せるのか。 参入ルートを、公式情報にそって整理します。
僕は薬剤師の免許がありますけど、資格がない人でもメディカルライターになれるんでしょうか…?
免許は強い武器よ。でも必須ではないの。バックグラウンドの活かし方から見ていきましょう。
薬剤師・看護師・臨床検査技師など医療研究のバックグラウンドを活かす
メディカルライターは、医療や研究のバックグラウンドを活かしやすい職種です。 狭い意味でのメディカルライターが扱うのは、薬事申請の書類や学術論文といった、医学・薬学の知識が前提になる文書だからです。
たとえば、こうした経験は強みになります。
薬剤師として、医薬品や添付文書に触れてきた経験
看護師や臨床検査技師として、治験や医療の現場を知っている経験
大学や企業で、研究・論文にかかわってきた経験
こうした職種で培った専門用語の理解や、データを正確に読む姿勢は、そのままメディカルライターの土台になります。 現職で医療や研究にかかわっている人にとっては、これまでの経験を文章という形で活かし直せる転職先になります。 自分のこれまでのキャリアが専門文書とどう結びつくかを考えることが、最初の一歩になります。
公的資格は必須とされず、JMCAの教育コースで専門能力を養える
「文章の仕事に、特別な資格はいるの?」という疑問もよく聞かれます。 結論からいうと、メディカルライターになるために公的な必須資格があるという情報は、一次情報の範囲では確認できません。 医師や薬剤師のような免許がなければ就けない職種、とは言い切れないということです。
ただし、資格がいらない代わりに、専門的な能力は求められます。 その能力を養う場のひとつが、職能団体であるJMCAの活動です。 JMCAは定款で、メディカルライティングやヘルスコミュニケーションに関する教育カリキュラムの作成や、教育コースの開催を事業として掲げています。
つまり、独学だけに頼らず、体系立てて専門能力を身につける道が用意されています。 必須資格がないからこそ、こうした教育の機会や実務経験を通じて、自分の専門性を示していくことが大切になります。 (出典: 日本メディカルライター協会 定款 )
在宅・フリーランスで働ける数少ない製薬関連職種
製薬・治験にかかわる職種の多くは、医療機関や企業への常駐が前提です。 就業規則で副業が制限されることも多く、フリーランスや在宅で働ける余地は限られます。 そのなかで、メディカルライターは在宅や業務委託の選択肢を持ちやすい、数少ない領域です。
論文や文書の執筆は、成果物で評価しやすく、場所を選ばずに進めやすい業務だからです。 実際、メディカルライターの担い手には、製薬企業やCROに所属する人だけでなく、業務委託で契約して働く人もいます。
もちろん、未経験からいきなり在宅・フリーランスで安定させるのは簡単ではありません。 まずは企業やCROで経験を積み、専門性と実績を築いてから働き方を広げるのが現実的です。 文章を書く力を軸に、働き方の自由度も視野に入れられる点は、メディカルライターならではの魅力です。
未経験からメディカルライターを目指すなら、まずは自分の経験がどの専門文書と結びつくかを整理することから始まります。
よくある質問
メディカルライターに資格は必要ですか?
公的な必須資格があるという情報は、一次情報の範囲では確認できません。 ただし専門的な能力は求められ、職能団体のJMCAが専門能力を養う教育コースを設けています。 資格の有無よりも、医学・薬学の知識と論理的な文章力を示せるかどうかが問われます。 (出典: 日本メディカルライター協会 定款 )
未経験でもメディカルライターになれますか?
薬学・医学・研究のバックグラウンドが活きる職種で、製薬企業・大学・行政機関・CROなどが活躍の場です。 求められる力は、ライティングスキル・リーダーシップスキル・ITリテラシーの3つと整理されています。 現職で医療や研究に触れている人ほど、これまでの経験を活かしやすいでしょう。 (出典: 日本メディカルライター協会/日本製薬工業協会 公開資料)
メディカルライターは在宅で働けますか?
製薬・治験職の多くは常駐が前提ですが、メディカルライティングは在宅や業務委託の選択肢が比較的存在する数少ない領域です。 文書の執筆は成果物で評価しやすく、場所を選ばず進めやすいためです。 ただし、まずは経験を積んでから働き方を広げるのが現実的です。
まとめ:メディカルライターは専門性を武器にできるキャリア
メディカルライターは、製薬企業やCRO、大学・行政機関などで、承認申請の書類や学術論文といった専門文書を執筆する職種です。 仕事は薬事文書の作成とPublication Managementに大きく分かれ、所属先も製薬企業から制作会社まで幅広いことを見てきました。 求められるのは、ライティングスキル・リーダーシップスキル・ITリテラシーの3つの力です。
年収には単独の公的統計がないものの、近い専門職の目安からは、専門性に見合った待遇が期待できる職種の一群だと分かります。 公的な必須資格はなく、医療や研究の経験を活かして未経験から目指す道もあります。
文章を書く力と医学・薬学の知識を掛け合わせて、専門性そのものを武器にできる。 それが、メディカルライターというキャリアの魅力です。
資格がなくても、これまでの経験と書く力で勝負できる仕事なんですね…!
そういうこと。ライティングと専門知識を掛け合わせることで、ほかの職種では埋まらないポジションを作れるのがMWの面白さよ。